vertical richard

予告通り、おり3の小説についていくつか感想を書いてみます。

感想はタイトルが目にとまった順です。ジャケ買い好きなので。
内輪な上ネタバレもたぶんあるので、興味のある方だけどうぞ。


No.12 フォーカス・レンジ
どこまで飛躍するのかと期待していたら意外とベタベタなお話でした。文章は読みやすいよう配慮して書かれているようですが、箸休めなくたたみかける家族愛には胃がもたれます。
あと、せっかくの素晴らしい写真について、ほとんど省略気味に描写されるに留めたのは結構失点高いと思います。せっかく「すごい写真家」という設定を読者に納得させるチャンスだったのに。


No.24 結婚適文句
コメディー・スケッチみたいですね。細部まで工夫が凝らしてあって楽しめました。
こういう日常マッド系は好みかも。


No.36 ソラアイ
タイトルがキャッチーでよいです。
あとはひたすら青い。もっと本読んで面白い次作書いてください。


No.63 未来視の見る夢
帯を気にならせてまずは手に取らせる手法も含め、ギミックが非常にうまい。細部まで丁寧にレゴブロックを積むような几帳面さとプロットのラインから一本もはみ出ないストーリー作りという印象でした。けなしているのではなく、この手法でここまでのスキルを持つ書き手さんをみられたのはひとえに眼福だな、と。おつかれさまでした。


No.65 金曜日のつめきり
これは今回読めて本当によかった、と心から思いました。自分が受け取る些末な体験が些末な思考を呼んでやがて曖昧に消えていく、ただそれだけのお話。
いまこうして私が書いている日本語と本当に同じ日本語で文が構成されているのか、という感覚はすずめつめさんの著作を読んでいる感覚に近いものがあります。


No.70 アリス
すごい好き。ラストは正直予定調和なんですが、序盤と中盤からはフリルのドレスと安っぽいディストーションギターのパワーコードが聞こえてくるくらい映像的で、入り込んで読んでしまいました。




いろいろ言われている帯ですが、作者側にとってリスクが多すぎるのは事実だと思います。印象が基本マイナスになりますから。今回は自分の書いたものを大事にしてしまうあまり抽象的なレトリックを帯としてしまう人が目立ちました。それ、かなり難しいですよ。
使いこなせる自信がある人以外は極力ノーコメントが無難なのではないでしょうか。
読者としてはつまらなそうなのを簡易フィルター的にどんどん除外していけたので重宝しましたが。